農業を営む専門の方にも家庭菜園やガーデニングを楽しむ一般の方にもよく使われる殺虫成分フェニトロチオン(MEP)があります。商品名は各メーカーで異なり親しみやすい名前になっています。

フェニトロチオン(MEP)は有機リン酸系の殺虫剤の中でも最も代表的と言える存在です。どこのホームセンターでもフェニトロチオンの入った殺虫剤は必ず置いてあります。

フェニトロチオンは1961年12月26日の発売からもう50年以上使われています。
長年使われてきたことと数多くの害虫に殺虫効果があることから、この成分を含んだ殺虫剤製品の数は10や20どころではありません。

長く使われてきたこの成分は、販売側の話ではとても安全な殺虫剤ということになっています。

しかし自社製品を危険だと言うメーカーはあまりありません。長く使われているから安全だとの主張は当然のことでしょう。
農薬としても活躍しているフェニトロチオンですが、一方では危険だという意見も存在するのです。

殺虫成分による危険な症状、死亡例

『農薬毒性の辞典』三省堂出版を見てみると5ページにも及んでフェニトロチオンについて書かれており、毒性や残留性、環境汚染と事細かく載っています。

毒性だけ要約するとこのように書かれています。

アカゲザルとビーグル犬(毒性検査に使われる犬はビーグル犬が多いです)にフェニトロチオンを長期投与した場合、血清に異常が見られた。
肝細胞の変形や脱落再生や動眼筋組織間質浮腫など、どれも薬剤の影響が見られた。
その他に精子形成異常、リンパ節萎縮、副腎の肥大も報告されている…などです。


出典 『農薬毒性の辞典』三省堂出版 加工して作成

またフェニトロチオンを散布してそれを浴びた場合には直ぐに症状が現れなくても、重い中毒症状になり死亡する事故まで起きているとありました。


出典 『農薬毒性の辞典』三省堂出版 加工して作成

膨大な毒性試験の数々の結果

国の機関のひとつ食品安全委員会農薬専門調査会でもフェニトロチオンについて公表しています。PDF資料では安全性を確保するための毒性試験は11ページから60ページまでありました。
その中には急性毒性が認められるものや、フェニトロチオンの残留がどの程度あるかなどが試験項目ごとに載っています。下記はその中のほんの一部分です。


出典 食品安全委員会 加工して作成

フェニトロチオンの毒性や残留濃度がどの程度なら全く心配ないのかについて、私には判断がつきません。しかし観察された症状の自発運動減少や呼吸不規則、呼吸困難、運動失調、眼球突出、間代性痙攣、死亡がどういうことなのかぐらいは分かります。
これを見て安全と思う人は少ないのではないでしょうか。



毒性試験の未公表の理由は?

個人的に特に不思議で分からないところは、このPDF書類の最後の方に長々と続く様々な毒性試験に対し、未公表とされているものがやたらと目につくのはどういうことなのかということです。
公の大学もそうですが、特にフェニトロチオンを開発したメーカーはことごとく毒性試験の結果を公表していません。

公表したくない理由は一体何なのでしょう。
安全であるなら堂々と公表できるのではないでしょうか?


出典 食品安全委員会 加工して作成

普通なら「長く使われているから安全性は高いです」という言葉に納得しますが、これでは安全だとは考えにくい気がします。実際に中毒、死亡事故も起きているわけなのですから。

フェニトロチオン(MEP)は製品の数も多く、農業を専門とする人だけでなく家庭用でも使われています。また、公園や街路樹、森林など広範囲で使われる殺虫成分です。
そのため大気汚染や水質汚染の報告もあり、河川に流れ込んだフェニトロチオンは私たちの飲料水にも悪影響を及ぼすことは否定できません。

多くの害虫を殺す殺虫成分ですが、それは巡り巡って私たち人間の首を絞める結果となるかもしれません。未公表の実験結果も怖いですし、安易に使うのは控えたいものですね。