全国津々浦々、美味しい漬物は数限りなく存在します。
その中で奈良県を代表する漬物は?と訊かれたら、誰でも間違いなく「奈良漬」と答えるでしょう。
最近では奈良漬と言えば、酒粕に漬け、べっ甲色で、甘味がある漬物という認識が一般的なように思います。しかし、やや甘すぎるなと思って成分表を見てみると、甘味料が添加されていることもよくあります。
しかし奈良漬というものは、本来余計な甘味を加えずに作られるものです。その甘みは野菜そのものの甘味であって、塩漬けした野菜を何度も酒粕に漬け替えて作られていくのです。
そんな昔ながらの製法を今に伝えてくれるメーカーさんがいます。
奈良県の「今西本店」では創業の江戸末期から現在まで、その製法を変えることなく奈良漬を作り続けられています。
歴史を感じる今西本店
「今西本店」 はJR奈良駅、近鉄奈良駅近くの三条通りに江戸末期より店を構えています。
趣のある建物は、築年数で言うと右側の方が築400年ほど、左側は築150年~160年ぐらいだそうです。
中に飾られている看板は開店当初からのもの。歴史を感じますね。
そんな今西本店さんのHPはこちらです。
純正奈良漬と言われる由縁
江戸末期から創業の今西本店は創業当時のままの奈良漬製法を貫いています。
その製法は味醂粕は用いず、酒粕のみを何度も何度も漬け替えて作り上げるというものです。
使用する酒粕は灘の酒蔵のもので1年以上熟成させたもの。その酒粕にうりやスイカを最低でも3年、最長では13年漬けておきます。
一番長い年数のものになると17年漬け込む奈良漬もあるそうです。(まるでモルトウイスキーみたいですね)
漬け込んでいる年月の間に最低6回は漬け替えるそうで、7回、8回の物や、さらには10回漬け替えるものもあるのだそうです。
もちろんすべて手作りで、添加物は一切入っていません。
そんな一品のひとつがこちらの木箱に入ったものです。
瓜、胡瓜、西瓜、瓢箪、茄子の詰め合わせです。
長い年数をかけ何度も漬け替えるとべっこう色を通り越して、こんなに深い色になります。
私が一番感動したのは今日買った商品のひとつ、白瓜の奈良漬の裏に書かれています。
原材料がしろうりと清酒粕だけなのはもちろんです。
買った日が2016年10月なのに、賞味期限は2018年10月となっています。
保存料等の添加物は一切使用せず2年も賞味期限があることも驚きですが、中のしろうりが酒粕に漬かっている状態なら、一旦開封しても2年以上常温で保存可能だと言うのです。
確かに保存方法は「酒粕に漬け40℃以下」とありますね。
江戸期の冷蔵庫のない時代に、奈良漬は常温でも保存できる素晴らしい発酵食品だったのです。
この製法を守り続けている今西本店の奈良漬は、全国観光土産品公正取引協議会より「純正」の呼称が許されています。
これが許可されるのは一品目につき一つだけです。ということは日本で唯一「純正奈良漬」と呼べるのは、この今西本店の奈良漬だけということになります。
また、 経済産業省補助事業で “世界にまだ広く知られていない、日本が誇るべきすぐれた地方産品”を発掘し、海外に広く伝えていくプロジェクトの 「The Wonder 500」にもこちらの奈良漬が選ばれています。
漬物の欄をみたら、梅干しがひとつと今西本店の奈良漬だけでした。
今西本店の奈良漬は甘味料は入っていないので糖分は0です。
漬ける年数が長いために塩分と水分が抜けていき、塩分濃度もほぼ0になっています。
色が濃いから濃い味に思うかも知れませんが、熟成された酒粕の旨味の発酵食品です。
糖分、塩分の心配のないご飯のお供だと思います。
市販の奈良漬と比較してみた
今回、純正奈良漬に出会いましたので、スーパーにはどんなものが並んでいるか見に行きました。行った先のスーパーにあったレベルの高そうな国産の原料を使用している奈良漬はこちらです。
確かに原料は徳島県とありますが、ぶどう糖加糖液糖など気になる糖類が使われています。
こちらは原材のきゅうりは中国産でした。
添加物の名前がずらずらと並んでいます。
次に見たのは今西本店で最近多いと聞いたインドネシアのうりを使った奈良漬です。
異性化糖(ぶどう糖加糖液糖や果糖ぶどう糖液糖)やカラメル色素の文字が並んでいます。
このような海外の奈良漬は現地で製造し、それを日本に輸入しているもので、たった3~6か月もあれば奈良漬として製品になるのだそうです。
話によれば原価は約50分の1ほどでできるのだとか。
原価が安いにもかかわらず、これらの奈良漬はどれもそこそこのお値段がします。純正奈良漬がいかに価値のある漬物なのかがわかりますね。
今西本店では熟成された酒粕の販売もあります。
和歌山県の小さな酒蔵である名手酒造店の「黒牛」の酒粕です。
そちらを購入される方は、ご自分で塩漬けにした野菜を漬け込んでいらっしゃるそうです。
そんな酒粕が手に入れば、オリジナルの奈良漬に挑戦してみるのも良いかも知れませんね。